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開催後記     

by CIA日本同窓会代表幹事 古市 尚


さる2010年11月4日〜6日までの3日間、カリフォルニア州ナパバレーにある世界屈指の料理大学、カリナリーインスティテュート オブ アメリカ(通称CIA)のカリフォルニア分校で食の教育イベントが行われた。話は約2年前に遡るが、毎年行われているこのイベントのテーマを「JAPAN」としたいという意向が学校側から伝えられ、今回の日本側責任者となられたトーマス & チカライシの力石さんが中心となり、この一大イベントを引き受けたわけである。ご承知の通り、私はCIAのニューヨーク本校を87年に卒業しており、卒業後も同窓会活動や仕事を通して学校と連携した活動を行ってきている。今回はこのイベントを日本側が引き受けるにあたって、CIA日本同窓会の代表として準備委員会発足当時から委員をお引き受けした次第である。このイベントの正式名称は WORLDS OF FLAVOR INTERNATIONAL CONFARENCE & FESTIVALといい、アメリカの食産業界においてはトレンドを左右する重要なイベントとして位置付けられている。 今までのテーマはアジアや地中海といった地域であったり、ストリートフードなど食の形態であったりしたが、文化と共に国をテーマとして挙げられたのはスペインに次いで2カ国目となる。その背景にはアメリカはたいへんな日本食ブームになっており、もうトレンドと言って片付けられない位置付けになっている。寿司や豆腐はごく一般的にローカルなスーパーマーケットで売られているように、メニューによってはすっかりアメリカに定着しているものもある。一方、外食業界では「日本料理」を謳うレストランは海外に3万店舗あるといわれているが、その内、日本人が経営しているのは10%未満の3千店舗に届かないともいわれている。その様な背景の中、世界を代表する食の教育機関であるCIAは、日本食に注目が集まる一方で、正確な日本料理がアメリカに伝えられていないことに着目し、日本食をテーマに取り上げたわけである。

日本事務局では2年前から準備を進め、このイベントに協賛していただけるメーカーなどの企業集めや、このイベントの趣旨に共鳴してくれるトップシェフの人選などを進めた。準備委員会では服部栄養専門学校の服部校長、辻調理師専門学校の辻校長を始め、調理人としてはミシュランで3つ星を持つ、菊乃井の村田さん、京都吉兆の徳岡さんや日本料理以外からサミットの料理長を務められた三國シェフなどに委員になっていただき人選を進めた。
今回の参加は全くのボランティアにも拘らず、事務局や委員の方の努力の結果各分野を代表するトップシェフの賛同を得ることが出来、参加していただけることになった。ジャンルはそば、うどん、ラーメン、お好み焼き、焼き鳥、江戸前寿司、大阪寿司、串揚げ、すき焼き、天ぷら、郷土料理、懐石料理、和菓子と広範囲に亘り合計39名の料理人の方が現地ナパバレーに出向いてデモンストレーションや試食メニューを作ることに承諾いただけた。特に、懐石料理の分野は稼ぎ時の11月にも拘らず、京都から11名の超有名店の料理長が参加してくれたことは正に日本代表チームと呼ぶにふさわしい顔ぶれとなった。

このカンファレンスには1人、1,295ドル(約11万円)のチケットを買わないと入れないが、誰でもが買えるわけではない。スペースや試食の関係から800人以上は会場に入りきれないので、CIA側で参加者を料理人、料理研究家、食ジャーナリスト、ホテル・レストランや集団給食のメニュー開発者や食材購買関係者に限定している。参加費には2日半の食事も全て含まれており、1日目、2日目の夜、3日目の昼はマーケットプレイスと称して、チームオブジャパンの超一流シェフが腕を振るう。講義や料理の実演はゼネラルセッション、セミナー、ワークショップと講義スタイルによりジャンルが分かれており、全部で67のセッションが行われた。
ゼネラルセッションは350名が着席できるメイン会場で行われ、入りきれない人は他の教室のモニターで見ることが出来る。それ以外のセッションは同時進行で学校中の教室で行われており、参加者は興味のあるテーマのセッションに申し込んで早い者順で参加することが出来る。私は4つのセッションのモデレーターという進行役を仰せつかり、微力ながらカンファレンスに協力した。その中でもメイン会場で行われた「日本のカジュアルフード」と題した講義では大観衆の前でしかも英語でスピーチするのだから、さすがの私も久し振りに腹筋が痙攣するほど緊張した。その他のセミナーやワークショップは20人〜30人の規模でしかも料理の実演があるセッションだったので、参加者と和気藹々と楽しく進めることが出来た。
今回のカンファレンスで特筆すべき点は、どの料理人もアシスタントを連れて行くことが許されなかったことと全ての料理人、モデレーターが無給のボランティアだったことである。そもそもCIAはNPO法人なので利益を目的としない学校法人であり、学校の運営はホテルや食品メーカーから毎年50億円近くの寄付が寄せられる。今回のカンファレンスは日本側で約20社の企業から合計8千万円近く寄付して頂いた。また、アメリカ側でも同じように寄付が集められ、全体的にはこのカンファレンスに2億5千万円ほどかかっている。  マーケットプレイスでは39名のチームオブジャパンの料理人たちが、スポンサーの食材などを使い200名分の試食プレートを計3回提供した。料理人たちを手伝うのはCIAの教師や生徒たちであるが、コミュニケーションが難しいことと、下手に手伝わせて変なことになってしまうと困るので、下ごしらえからブースでの料理提供まで全てを超有名料理人自らが行った。その結果、これほどまでに本格的で美味しい料理は日本でもそう食べられないのではないかと思えるほどの完成度の高さであった。  厨房ではその料理人の情報交換や会話もまた今回のカンファレンスの副産物で、非常に興味深いものであった。ソロモン流でも放映されたが、ラーメンのテレビチャンピオン森住さんの作る醤油を菊乃井の村田さんが試食したり、スープをオテル・ドゥ・ミクニの三國さんが試食したりして、いいところを称えるなど、普段ではありえない光景が垣間見られた。今回のカンファレンスを通して、料理人の方々はお互いに大いなる刺激を受けられ、もう一度自分を見つめ直すいい機会になったと言われる方もおられたし、若手や2代目が活躍しているのを見て、帰りの飛行機の中で60歳の引退を決めたと言われる方もいた。我々委員やモデレーターは、今後のFTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が各国で進むことを考え、農業を含めた日本の食のあり方に協力が出来ればと感じた人も少なくなかった。私も現在、兵庫県の成長戦略をお手伝いさせて頂いているが、今後の食産業に役立つ学校を設立できないかと奔走している次第である。

〈写真提供〉Terrence McCarthy for The Culinary Institute of America. Copyright 2010.